

■斜面地に重層長屋を木造で建てる
敷地は日照と眺望に恵まれたひな壇状の南斜面地にあり,南北に細長い形状を持つ。オーナーはこの敷地の西隣に住まわれており,本計画の敷地と併せて二区画を所有されている。オーナーはこの敷地に建つ戸建て住宅を3戸の長屋(オーナー住戸+賃貸住戸)に建て替え,自らが移り住むことを計画された。
国内の長屋としてはほとんど先例がないロ準耐1号建築の計画。全体として4層(地下1階,地上3階),地上部分は木造3階建てでありながら,外壁を1時間耐火構造とすることで,火災時にも安全で,内部の柱梁を現しとした竪穴区画のない開放的なインテリアを実現している。本敷地のような隣地と近接した都市部に建つ木造長屋の先導的事例となることを期待している。
■3つのボリュームが相互に貫入する連続体
このひな壇状の敷地には3つのレベルがある。最も低い南の道路レベルとその中間のレベルにはそれぞれ賃貸用住戸,敷地北側の一番高いレベルにはオーナー住戸を配置することとした。南北に長い敷地だから,高低差があるとはいえ,ただ直線的に並べただけでは,北側の住戸の採光と眺望は損なわれる。どの住戸からも良好な眺望が得られるようにボリュームの配列の調整を行った。具体的には,賃貸用の2住戸をメゾネット,オーナー住戸をトリプレットとし,それぞれ平面的に交互にずらしながら,断面的には地形に沿って階段状に配置し,下階の住戸の屋根をリビングとつながるルーフテラスとして利用することを試みた。平面的にも断面的にも互いのボリュームが貫入しているため,自ずと界壁と界床のラインは複雑なものとなるが,防耐火ラインが途切れないよう注意深く設計している。外装は周囲の環境を敏感に映し出すシルバーのガルバリウム鋼板で統一されているが,各住戸のボリュームごとに葺き方の工法が異なる。遠景からはひとつの連続体として認識される一方で,近景からは各住戸のボリュームが分節され,長屋としての「一体性」と各住戸の「独立性」という背反する特徴が共存するような建築を目指した。
■大階段の体験を室内に取り込む
初めて敷地を訪れた時,敷地南端にある末広がりの大階段がとても印象的であった。「住まう」ことは時間と空間の経験に他ならないわけだから,この敷地の地形を上り下りする経験を新たな住まいにおいてもなんらかの形で埋め込むことがとても重要に思われた。ここでは敷地の勾配に合わせた末広がりの室内階段を設計し,外部と内部の空間体験の連続性をつくりだしている。階段部分の屈曲した外壁は,ロ準耐1号の要件である「外壁及び屋根の構造的な自立」を担保することにも貢献している。
■敷地境界線を設計する
各住戸に対し異なるレベル・方角からアプローチを計画することで,地形とユニークな立地を活かした特徴的な空間体験を生み出すことを目指した。設計の初期段階で,西側の引き込み道路(私道)に接道するように敷地西側を一部拡張(下図オレンジ部)している。(オーナーの現住まいの土地を一部割譲)これにより,高齢のオーナーが,階段を上らずに敷地西側の私道からそのままフラットに玄関にアプローチできるようになった。










床にはプランターが落とし込まれていて,ガーデニングを楽しむことができる。




