町田のコートハウス

■棲み継がれる場所 町田市を北西から南に縦断する街道沿いに建つ住宅である。クライアントは約300年続く旧家に生まれ育ち、父祖伝来のこの土地に強い愛着を抱いている。旧家屋は、約560坪の広大な敷地の一角に建っており、築40年を超え、ひどく老朽化していた。クライアントである老夫婦は、敷地を1/3に縮小し、老後を暮らすための住居をつくることにした。すなわち、この敷地の北側の1/3に新居を建てて、移り住み、南側の2/3は、旧家屋を取り壊し、新たに地域の医療に貢献する診療所を建設するというプロジェクトだ。我々は新居の設計を依頼された。将来的には子供たちが、家を引き継いでいくことを想定している。

町田のコートハウス
南東側外観。家型のシルエット。妻入りの構えにより正面性を与えている。外壁は厚さ0.6mmの亜鉛めっきステンレス鋼板

■コートハウスという形式
クライアントは、新居に高いプライバシーと防犯性を求めていた。周囲は郊外にありがちな茫漠とした風景が広がっているため、さほど借景の効果は期待できない。そこで、リニアな母屋を敷地北側に配置し、その南に平屋の車庫と倉庫を母屋に対し平行に配置する。これにより東西に長い中庭を形成し、内側に閉じる形式を選択した。中庭には、四季を通じて十分に楽しめる植栽を配置し、母屋の室内からの見えを意識しつつ、表情が豊かな庭を造る。

■連続体/破れたシェルター
母屋棟は延床約70坪のかなり大きなボリュームであり、近隣の家並みのスケールに比して、大きなスケールギャップを生むことが予想された。ここでは、複数の切妻型のボリュームを桁方向に連結することで住居の全体を構成し、小さな家の集合体を表象することを目指した。切妻の長大な連続体が適度なスケールに分節されて見える効果を意図している。
一方で内部空間は、全長25mの長大なチューブ状の空間である。棟を境に北側のゾーンに個室や水回り、南側にはリビング・ダイニングを配し、南側のゾーンでは、このスケールメリットを最大限に活かし、建物の端から端まで見通すことができる視線の抜けを確保している。空間が連続する方向に対し直行する方向に、スリット状の切り込みを入れて空間に破れをつくる。これにより、短辺方向に庭の景色や自然光・通風をもたらす仕組みとなっている。
住居の外殻を構成するシェルターの内部は、架構を表し、木質系の仕上げによって内装を施し、そのほかの珪藻土(白)の仕上げと差別化を図っている。

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南側外観。黒い家型のボリュームに、スリット状の切り込み(白い仕上げ部分)を入れた構成。東西に細長い平面とすることで、光、熱、風を効果的に室内環境へ取り込む

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2F 廊下。シェルターの内部は構造を現し、木質系の仕上げ

 

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■シェルター/エアーシールド
住居の構成としては、8m×25mの短冊状の平面に対し、家型の断面形を持つ木造のシェルターを架けるという、シンプルなものである。1階の床下に、主要な空調設備を集中的に納め、上部構造を設備やダクトのスペースから開放された軽快なものとしている。1階床面には、冷暖房のための空調吹出口を設けている。
シェルターの外壁には空気層(40mm)を確保している。屋根の頂部には、数カ所の電動ダンパーを設置し、季節に応じて開閉できる仕組みになっている。冬季モードでは、ダンパーを閉鎖し、空気層に全体を暖める。夏期モードでは、ダンパーを開放し、通風を促すことで、室温の上昇を抑制する。設計の過程では断熱効果のシミュレーションを行って、最適な空気層の寸法を決定した。

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1F リビング。最高7.5mの吹き抜け。壁際の床面には空調の吹出口を設けている。北側のゾーンは個室や水廻りを収めている
南側全景
南側全景
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1F リビングより中庭を見る

 

2F 書斎
2F 書斎

 

1F 和室
1F 和室
南側夜景
南側夜景
1F リビング、ダイニング。建物の端から端まで約25mの視線の抜けを実現している
1F リビング、ダイニング。建物の端から端まで約25mの視線の抜けを実現している
中庭より母屋を見る
中庭より母屋を見る

■場所の記憶を継承する作庭法
旧家屋の庭には、クライアントが愛着を持つダイスギ、ゆず、タマリュウなどの地被植物、花崗岩の敷石、景石などが、数多くあった。これらを新居の庭にできるだけ移植し、離散的に配置することで、場所の記憶が、新居においても引き継がれていくように庭をデザインした。

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Detailed Information

  • 敷地 : 町田市
  • 用途 : 住宅
  • 構造 : 木造
  • 階数 : 2階
  • 建築面積 : 273.21m²
  • 延床面積 : 331.97m²
  • 外構設計 : カネミツヒロシセッケイシツ
  • 施工 : 山菱工務店
  • 撮影 : 中川 敦玲